緑内障の概念を根本より覆した『多治見スタディー』(岸和田市医師会広報H15.3)」

山本眼科 山本起義

 緑内障に関する第1回目の疫学調査は、日本眼科医会と日本緑内障研究会(現緑内障学会)の共同調査が1988〜1989年に行われ、40歳以上の住民検診受診者中の有病率3.56%で、30人に一人は緑内障で、しかも眼圧が正常値を示す緑内障(正常眼圧緑内障NTG)が眼圧の高い緑内障より多いことが示され、私たち眼科医を驚かせたことは記憶に新しいものですが(医師会広報第36号参照)、7ヵ所の調査地のうち5カ所で住民の受診率が50%を下回るなど疫学調査として信頼性にかける点があり、また、この調査の結果があまりにも世界の緑内障の常識からはかけ離れていたため、世界からも結果の信憑性が疑問視されていました。そこで清水岐阜大学疫学予防医学教授に疫学の専門家として参画を願い疫学的に有効なプロトコールの立案に則り、日本緑内障学会と多治見市との共同で2000年9月から2002年3月の期間実施されたのが多治見スタディーです。

 対象者

平成13年4月1日現在で40歳以上の多治見市の市民54,165名から4,000人を

無作為抽出、期間内死亡や転出130人を除く対象者は3,870人で

この対象者のうちの受診者は3,021人で受診率は78.1%でありました。

受診者の年齢構成は、以下のとおりです。

結果

その結果40歳以上の17.3人に一人は緑内障であり(前回は30人に一人)年齢を重ねるごとに有病率が高くなっていることが分かります。

見つかった緑内障患者の病型を見たのが次の表です。

開放隅角緑内障(原発性開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)が圧倒的に日本の緑内障に

多いことが分かります。ではその開放隅角緑内障の内訳を見たのが次の表です。

つまり、日本の開放隅角緑内障の9割以上は眼圧の高くない緑内障であることを

示すものです。

 まとめ

今回の調査は、信頼性の高いわが国における緑内障疫学調査結果となりました。

今回の調査により、緑内障はごくありふれた病気でありながら見逃されていることが

いかに多いかわかりました。とくに今回緑内障と診断された中間集計の174人中自覚

症状のあったものは8%であり、過去に3%が緑内障の疑いを指摘されてはいましたが

残りの89%は自覚症状がまったくなく過ごしていたこと分かりました。

いままで、私たち眼科医は眼圧をよりどころに緑内障の診断をしておりました。前回

の疫学調査の際にもすでに眼圧だけでは緑内障は診断できないといわれておりましたが

今回の調査により、眼圧だけでは9割の緑内障患者を見逃してしまうことが決定的と

なりました。

日本の全緑内障の67.8%は開放隅角緑内障でありそのうちの9割以上は眼圧の

正常な緑内障であることがわかり、緑内障治療とは正常眼圧緑内障をどうするかという

問題であることが明らかとなりました。

ただ現在さまざまな治療の試みがなされて、一筋の光明が見えつつありますが現在の

ところ正常眼圧緑内障であっても眼圧を下げることしか治療としての有効性は証明されて

おらず、明日からもこのことを心にしながら、眼圧を測り続けなければならないことは

言うまでもありません。

 多治見スタディーはわが国の緑内障の概念を決定的に転換させる結果となりました。

 

本稿は、関西医科大学眼科松村美代教授に御校閲を賜りました。記して深謝いたします。